2015年5月12日発行

【新・トーキョー・メンタルクリニック】③〜精神科の病気とは

鈴木医師の書棚より

【5月12日、mulan=東京】


■基本の病気は統合失調症


精神科の3大疾患は、統合失調症、躁うつ病(うつ病)、神経症です。

その中でも、統合失調症は基本の病気です。この病気の治療経験がない精神科医はいないでしょう。精神科の病気の中では最も患者数が多く、精神医療の歴史は統合失調と共に歩まれてきました。

発生率は大体1%程度で、100人に一人が発症します。発病しやすい年齢は20歳代が多く、男女差はありません。薬による治療が可能です。しかし、後述する「陽性症状」を改善することはできますが、「陰性症状」の進行は止められません。精神病院に長期入院している患者さんは、この病気の方たちがほとんどです。

原因はよく分かっていません。私が、なるほど、と思った統合失調症の説明は、「徐々に進行する脳の慢性的な変性疾患」というものです。つまり、だんだん脳が変化して、病気になる前のその人とは変わって行ってしまいます。(何が本来のその人らしさかという難しい問題はありますが。)


■陽性症状は幻聴や荒唐無稽な被害妄想


「陽性症状」には、幻聴や被害妄想があります。彼らの幻聴は「死ね」とか悪口などの嫌な物です。被害妄想は、

「隣の部屋の人が音を出して嫌がらせをする」

「ヤクザやCIAに狙われている」

彼らの被害妄想は荒唐無稽ですが、本人は本気でそう考えるので、そうとうに辛いわけです。それで被害妄想に何らかの対処しようとします。前者の被害妄想で、はマンションの廊下に水をまくという、かわいらしい?仕返しをしたり、後者では攻撃を防ぐために、自宅の窓やドアにバリケードを作ったり、目張りをしたりして、家族や周囲も迷惑をこうむることになります。治療せずに放置すると、幻聴や自分を狙っている組織から逃れるため失踪したり、辛さのあまりに自殺をするという、最悪の事態を招くこともあります。


■陰性症状は引きこもりや自閉状態


「陰性症状」にはどんなものがあるのでしょうか。やる気がなくなって、人との交流も欲しなくなって引きこもる、無為・自閉状態になったり、身なりを気にしなくなったり、高尚な考えを持てなくなるなど、人格レベルが低下したり、喜怒哀楽が少なくなって感情が平板化します。

これは薬の副作用ですが、水中毒というものがあります。のどが渇いて、水を大量に飲むために血液が薄まって、けいれんを起こしたり、ひどい場合は死に至ります。
  
過去に水中毒を起こした患者さんを、外来で担当していた時のことです。診察のたびに、水分は取りすぎていないかと聞いて、「そんなに飲んでませんよ~先生。」と、ニコニコして答えてくれていました。ある日の昼休み、私は病院近くのコンビニに、昼食を買いに行きました。そうしたら、その患者さんが、お茶やジュースの500ml入りのペットボトルを、20本近く抱えて出てくるところに遭遇しました。

「お水をたくさん飲んじゃダメって言ったじゃないですか!」

と、私が焦って言うと、

「え~水じゃないよ、お茶とジュースだよ、先生。」

と、言われました。

それを聞いたとたん、脱力です。笑い事じゃないですが、思わず笑ってしまいました。水分とは水だけではなくて、お茶、ジュース、コーヒーなどすべて含まれるという説明をしなくてはいけなかったか、と反省もしました。ちなみに、彼は40歳代の男性で、国立大の理系を卒業し、その10年前までは、誰でも名前を聞いたことがある大企業に勤務していた人でした。


■軽度なら自活も可能、周囲の理解は必須


ある50歳代の女性の統合失調症の患者さんです。彼女は職場の人に被害的になって、注意を嫌がらせと取りながらも、なんとか5年以上一つの会社にパート勤務して、自活していました。

陰性症状も進んで、家の中は乱雑、目立つ食べこぼしが付いたままの衣服を着て、動作は緩慢です。仕職場では、仕事が出来ないと毎日のよう注意されていました。お給料は大卒初任給の半分以下です。私は生活保護を受給するように勧めたのですが、本人は頑として働くことにこだわりました。生活保護の不正受給のニュースも多い昨今、彼女のこの姿勢には少し感動しました。

結局その会社は辞めたのですが、現在は職業訓練所に通い、次の就職に向けて頑張っています。

体の病気と同様に、精神科の病気も、軽症から重症まで様々です。残念ながら統合失調症の方は、現在の医学ではずっと薬を飲み続ける必要があります。が、最近はよい薬も開発され、軽症の方も多くなったので、治療をしながらごく普通に会社員や主婦として生活している方も大勢いらっしゃることを知っていただきたいです。【了】



すずき・ゆうこ/鈴木裕子

平成10年医師免許取得。その後、大学病院、市中病院、精神科専門病院などで研鑽を積み、触法精神障害者からストレス性疾患患者まで、幅広い層への治療歴を持つ。専門はうつ病の精神療法。興味の対象は女性精神医学、社会精神医学、家族病理、医療格差など。数年前より都内某所でメンタルクリニックを開業し、日々診療にあたっている。精神保健指定医、日本医師会認定産業医。


鈴木裕子 トーキョーメンタルクリニック 医療・妊活