2015年3月19日発行

新・「トーキョー・メンタルクリニック」②〜精神科医のお仕事とは

鈴木裕子医師

【3月19日、mulan=東京】


■初診時の問診で性格や価値観を判断


「精神科医の仕事と聞いて皆様はどのようなものを思い浮かべますか?」

患者を長いすに横たわらせ勝手にしゃべらせてうなずいているだけ?または患者をモルモット扱いして脳を切り刻むマッドサイエンティストでしょうか?----前者は精神分析というカウンセリングの方法で、最近では行われることは少なく、脳外科的な手術を精神科医が行っていたのは何十年も昔のことです。現在の精神科医が実際に行っている仕事は、診断をして、その方に適した検査、処置、投薬、入院などをアレンジするのが主な仕事です。

まず患者さんは外来を受診されます。そこで30分から1時間程度かけて初心時の問診をします。どこで生まれて、学校はどこまで出て、家族、友人関係はどうだったか、どんな職業についてきたが、結婚はしているのか、身体的な大きな病気をしてきたのか、などを聞き、その人の性格や価値観がどのようなものかを判断する材料にします。

その後、眠れない、気分が沈む、不安などの精神症状がいつから始まったかを聞いてきます。そして診断を下し、外来通院で様子を見ることができるか、もっと専門的な検査や治療が必要なため大きな病院を紹介した方がよいのか、入院を紹介するべきかなどの、病気の重症度の判断をします。他院に紹介する場合は紹介状を書いてお渡しし、自分の病院に通ってもらう場合には多くの場合、薬を処方し、次の予約を取ってお帰りいただきます。

内科のお医者さんが高血圧だとか糖尿病だとか診断して薬を処方するのと何ら変わりません。


■魔法のように人を見透かす?


こういう話をするとがっかりされる方がいます。

精神科医は、魔法のように人のことを見透かすして、「よく頑張ったね、もう大丈夫だよ」と優しくしてくれて、「これからのことは私が決めてあげるから心配しないで良いよ」と言って先のことを見通して決めてくれる、そんなイメージを持っている人も少なからずいるように思います。

いやいやいや、医師ですが、普通の人間なのでそんな力はないです。もちろん勇気を持って受診してくださった方たちなので、それをねぎらって、丁寧でわかりやすい対応を心がけています。

医者には患者さんの健康を向上させる義務があり、医師法にも規定されています。そのため医師の義務ばかりクローズアップされますが、患者さんの義務もあるのではないかと考えます。病気の主役はあくまで患者さんです。医者の力を借りながら、主体性をもって治療に取り組む姿勢が理想的だと思います。

ただし、裁判事件でよく耳にする「心神喪失状態」になった方には判断力がないため、医師の指示に従っていただきます。


■地味な日常の中に大きな人間ドラマ


クリニックでは外来診療だけですが、入院施設がある病院では、通常午前中に外来をして、午後は病棟の担当の患者さんを診ます。総合病院であれば、他の科から依頼された、ベッドから動けない患者さんの往診に行きます。その合間に書類を書いたり、家族面談をします。

書類書きは私たち精神科医の大切な仕事で、休職のための診断書、傷病手当という休業中の支給金のための書類、自律支援制度という医療負担が1割になる書類(精神科の制度については又の機会に詳しく)、精神障害者や障害年金の書類、介護認定の書類、成年後見人認定の書類などなど非常に多くの書類を書かねばなりません。

また、規則正しい生活をとか、復職前の自己リハビリのスケジュールのたて方、仕事を少し減らした方が良いなど、簡単な生活指導もします。個人的にはこれはとても大切だと思っています。保険診療では一人にかけられる時間が限られていますの、きめ細かい指導が必要になる場合、当院では臨床心理士のカウンセリングで対応しています。

このように非常に地味な作業を毎日淡々とこなしているのが精神科医の日常です。その中で静かに、時に大きな人間ドラマが見られたり、患者さん達の成長の場面に立ち会えることがあります。若い頃働いた急性期病棟や精神病院では、想像を超えるような出来事もありました。今後は差し支えない範囲でそれらをお話できていければと思います。【了】



すずき・ゆうこ/鈴木裕子
平成10年医師免許取得。その後、大学病院、市中病院、精神科専門病院などで研鑽を積み、触法精神障害者からストレス性疾患患者まで、幅広い層への治療歴を持つ。専門はうつ病の精神療法。興味の対象は女性精神医学、社会精神医学、家族病理、医療格差など。数年前より都内某所でメンタルクリニックを開業し、日々診療にあたっている。精神保健指定医、日本医師会認定産業医。


トーキョー・メンタルクリニック 医療・妊活 鈴木裕子