2016年6月21日発行

【ベルギー便り しなやかで強かな女性外交力】⑱〜ベルギーに音楽の専門大学、音楽学校が多いのは・・

ファイナリスト全員が花束を貰った/撮影 筆者

【6月21日、mulan=ブリュッセル】


■ファイナルのうち2名が日本人


A Butterfly’s Dream。毎年5月にブリュッセルで行われるエリザベート王妃国際音楽コンクール。今年はピアノ部門が開催されました。約1ヶ月続くコンクールでは、12名がファイナリストとして決勝に臨みます。そのファイナルの新曲課題のピアノ協奏曲が、中国の思想家・荘子による説話である「胡蝶の夢」にインスピレーションを得た、というこの「蝶の夢」でした。

喜ばしいことに、今年は12名のファイナルのうち2名が日本人、今田篤さんと岡田奏さん。お二人とも素晴らしい演奏だったのですが、残念ながら入賞(6位以内)はされませんでした。ちなみに、ベルギー人はセミファイナル24名にも残っていない残念な状況でした。

ベルギーのエリザベート王妃国際音楽コンクールは、ポーランドのショパン国際ピアノコンクールとロシアのチャイコフスキー国際コンクールに並ぶ三大ピアノコンクールのひとつです。チャイコフスキー国際コンクールは、ピアノ、バイオリン、チェロ、声楽の4部門を同時開催しますが、エリザベート王妃国際音楽コンクールは、年により開催部門が変わります。ピアノ、バイオリン、声楽の3部門だったのが、次回からチェロが加わるので、ピアノ部門は今後4年に1回の開催となります。


■ファイナリストには、演奏8日前に譜面が渡される


他のピアノコンクールと比較すると、課題曲の多さに特徴があり、精神的にも肉体的にも大変ハードなコンクールとして知られています。先ほどの「A Butterfly’s Dream」という新曲は、ファイナリストとして残ると、演奏する8日前に譜面が渡され、たった一週間で完成させなければならないそうです。また、このコンクールに特有なのは、出場者たちはホームステイをするのですが、そのホームステイ先がまるで本当の家族のような雰囲気で、「うちの子」を応援する様です。ファイナリストまで残ると、そのホームステイ先を離れ、今度は、Chapelle Musicale Reine Elisabeth (Queen Elisabeth Chapel)、通称シャペルと呼ばれる音楽の英才教育を行っている学校で合宿を行います。ここで、外部と完全に隔離されて新曲に取り組み舞台に立つ日を迎えるのです。

このQueen Elizabeth Chapelは選りすぐられた少数精鋭の特別な音楽学校で、寮生活もできる学校なのですが、ベルギーにはこちら以外に、ブリュッセルに2つ、アントワープ、ゲント、リエージュ、そしてモンスにも王立音楽院(Conservatoire、コンセルヴァトワール)があり、日本人音楽留学生もかなりいます。さらに、ナミュールやルーヴェンにも私立の音楽大学があり、特にナミュールは教員養成が主となっているなど、その数の多さに驚きます。公的機関であるコンセルヴァトワールを卒業するとヨーロッパのオーケストラで働くための資格がとれるそうで、授業料も他国と比較して安価なベルギーの王立音楽院には多くの留学生がやってくるようになっているそうです。特に、フランスではコンセルヴァトワール(フランスの場合は王立ではないため国公立の高等音楽院)の数を近年絞ったそうで、自国でコンセルヴァトワールに進めないフランスの学生がベルギーにやってくるケースも増えているそうです。そのために、ベルギー人の入学が難しくなり、ベルギー人学生が減っているのだとか。


■初等教育で音楽があまり取り入れられていない不思議


ベルギーで音楽が盛んなのは間違いないのですが、これほど多くの音楽の専門大学・学校があるのに初等教育で音楽はあまり取り入れられていないようです。成人向けの音楽教室などで教えている先生から、楽譜を読めない人や楽器にほとんど触れたことがない大人が結構いる、というお話を伺いました。日本だと、小学校で必ずハーモニカ、リコーダー、ピアニカなどを習っていると思いますし、自分自身、女の子だったらピアノはみんな習っているという世代の生まれなので、意外な印象を受けました。このあたりも、コンセルヴァトワール入学への競争や、エリザベート王妃国際音楽コンクールの結果、という形で現れつつあるのかもしれません。

世界で活躍する音楽家を最近どれぐらい輩出しているか、という点はおいておくとして、ベルギー人が音楽を愛し、大切にしていることと、エリザベート王妃国際音楽コンクールが単なるコンクールというよりも、一種国民的なイベントであるということは、確実にいえるのではないかと思います。

今回のコンクールでファイナリストまで残られた日本人ピアニストのお二人には、蝶のように華麗に世界という舞台で飛び回っていただきたいな、と思います。【了】

※筆者の個人的な見解で、所属する組織の公式見解ではありません。


栗原恵津子(くりはら・えつこ)
1995年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、外務省入省。1996-1998年、英国ケンブリッジ大学留学、その後、英国、ブルネイでの在外勤務を経験。東京ではアフリカ、西欧、経済連携協定、ユネスコなどを担当する部署で勤務。2014年1月にベルギーに赴任、広報文化全般を担当。

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審査委員長と握手する岡田さん


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