2016年5月23日発行

【ベルギー便り しなやかで強かな外交力】⑰〜小国におけるメディアの多様性

プレス通り。かつてはこのあたりにメディアの本社が集中していた/撮影 筆者

【5月23日、mulan=ブリュッセル】


■言語、地域ごとに情報の入手先が異なる


「うちでは○○新聞とっています」、という会話は日本ではよくあります。といっても、主要全国紙の1紙であれば、情報量や情報の種類は大きく変わらないのではないでしょうか。

 もちろん、新聞ごとの編集方針があり、社説などの論調は異なりますが、情報という意味での差違は比較的少なく、「違う新聞をとっている」といっても、それが主要紙であればだいたいにおいて情報は共有できている、といえるのではないかと思います。

 ベルギーには、全国紙、なるものは存在しません。同じ国なのに言語圏によって読む新聞がまったく違います。蘭語系、仏語系のそれぞれに主要メディアがあります。ベルギーという小国におけるメディアの多様性には驚かされます。

 例えば、蘭語系の「デ・スタンダード(De Standaard)」紙は、ベルギーのメディア・グループ「メディアハイス(MediaHuis)」の傘下にあり、ベルギーで最大の発行部数(約10万部)を誇る有力紙で、系列の「フット・ニュースブラッド(Het Nieuwsblad)」等とともに蘭語圏中立派を読者層としています。より小規模な蘭語系高級紙では、「デ・モルヘン(De Morgen)」(発行部数:約6万2000部)があります。仏語系では、「ル・ソワール(Le Soir)」が首都ブリュッセルの一般市民を中心に最も読まれており(発行部数:約8万部)、より小規模な仏語系高級紙として「ラ・リーブル・ベルジック(La Libre Belgique)」(発行部数:約4万5000部)があります。全国紙と呼べるものは存在せず、さらに各地方にローカル紙が存在します。言語ごと、地域ごとに情報の入手先が異なってくるのです。


■配信記事の多様とフリーランス記者の活用


 ベルギー最大の「デ・スタンダード」でも、社員は約140名の小所帯。全世界に特派員を置くなどもちろんできません。それでも各紙、それなりに様々な分野の記事をカバーできている理由は、通信社からの配信記事の多用とフリーランス記者の活用です。そもそも日本関係の報道は、貿易投資関連を中心とした経済記事を除くと頻繁にありませんが、国際・外交面での非EU関連記事は、通信社の記事の引用がよく見られます。

 ベルギーにも通信社は1社ありますが、この「ベルガ通信」そのものが限られた財源・資源のもとで活動しているため、EUを除く国際ニュース、外交はカバーしていません。そのため、国外ニュースについてはAFP通信を引用する形で補っています。また、文化面、特に音楽・芸術、食、旅行といった分野の記事は大半が契約のフリーランス記者による取材と執筆。専属の契約記者から、記事ごとの契約まで、契約の形はいろいろあるようです。

 市場の小ささがネックとなってベルギーでは定期刊行誌の数も種類も多くありません。インターネットに押されて活字メディアには厳しい世の中になってきたとはいえ、日本の書店に並ぶ雑誌の数は相当です。ベルギーでも情報誌はそれなりの発行部数があり、地下鉄の駅にはフリーペーパーが置かれていますが、自国のファッション、カルチャーに焦点を当てた定期刊行物はほとんど存在していないそうです。メディアの規模と影響力が限られていることから、ベルギーでは、自国の文化について紹介するような雑誌が育たない、ということのようですが、これは残念なことです。蘭語圏であれば英語や蘭語で発行された雑誌を、仏語圏だと仏語で発行されたフランスの雑誌を読むことが多いようです。

 ベルギーにおけるメディア事情、ベルギーという国を象徴しているように多様かつ複雑で、ベルギーの人達の考え方にも影響を及ぼしているといえるかもしれません。【了】


※筆者の個人的な見解で、所属する組織の公式見解ではありません。


栗原恵津子(くりはら・えつこ)
1995年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、外務省入省。1996-1998年、英国ケンブリッジ大学留学、その後、英国、ブルネイでの在外勤務を経験。東京ではアフリカ、西欧、経済連携協定、ユネスコなどを担当する部署で勤務。2014年1月にベルギーに赴任、広報文化全般を担当。


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