2016年4月28日発行

【ベルギー便り しなやかで強かな女性外交力】⑯〜コミックの父はベルギーに

コミックの壁画が街中のあちこちに/写真、筆者提供

【4月28日、mulan=ブリュッセル】


■街中のあちこちに漫画の壁画が


 タンタン(Tin Tin)は日本でも知られている「タンタンの冒険」のキャラクターですが、ベルギーの漫画の主人公であることは意外に知られていないかもしれません。タンタンと相棒の白い犬、スノーウィの冒険物語は、1929年、新聞の子ども向け週刊増刊号として始まったものです。作者のエルジェは、本名はジョルジュ・レミという新聞記者で、新聞記者としてよりも漫画家として有名になり、「コミックの父」と呼ばれています。

 23話にのぼるタンタンの冒険物語は、南米から月世界まで旅して、アジアにも行っています。中国が舞台となる「青い蓮」では日本人が登場しますが、上海で暗躍する日本人工作員ミツヒラトという悪役なので、あまり喜んで読めませんが。日本人の漫画の登場人物といえば、「ヨーコ・ツノ」というSF漫画の主人公、日本人女性電気技師「ヨーコ・ツノ」は、道にその名前が付けられているほどベルギーではメジャーなようです。

 ブリュッセルの街中を歩けばあちこちで漫画の壁画に遭遇します。現在ブリュッセル市内だけで40カ所あるこの壁画は、ブリュッセル市など関係者による理事会で協議され、毎年のように新たなものが制作されています。壁画となるのは名誉なことなので、キャンバスとなる壁も作品そのものも、無償提供されるそうです。ブリュッセルには、図書館も備えた漫画博物館がありますが、もちろんこちらの館長も漫画壁画を協議する理事会の一員です。


■ベルギーが漫画大国のワケ

 
 なぜベルギーは漫画大国なのでしょうか。これは、複数言語の国であるため、文字、言語の不要な視覚的表現として漫画が発達したといわれています。ベルギー国内の漫画家の数は相当多いそうですが、日本を含めた国外の漫画も仏語訳、蘭語訳されて入ってきています。ベルギーでは、漫画は主要な「輸出品」であり、「輸入品」でもあるといえそうです。ベルギーでの漫画の位置づけは、基本は子どもが対象ではあるものの、子どもから大人までが楽しむもので、特にハードカバーの漫画は芸術性が高く、大人のためのものとなっています。ハードカバーとなるのは仏語作品が多いという点は、ベルギーの言語ごとの国民性の違いを表すものといえます。アート・フェアでも有名漫画家の作品が並んでおり、ベルギーで漫画は、文化として根を下ろしており、ビジュアルアートとして認識されているといえるでしょう。

 ところで、漫画というよりアニメのイメージになりますが、日本人ならばおそらく知らない人はいないと思われる「フランダースの犬」。

 「フランダースの犬」は英国人ウィーダ原作で、ベルギー人の大人を意地悪に描いており、ベルギーをオランダやスイスと混同した描写が多いことから、かつてはベルギーでは全く知られていなくて、人気もありませんでした。日本での「フランダースの犬」のアニメ人気が逆輸入されて、ベルギーでの人気漫画「ススカとウィスカ」で「フランダースの犬」の話が取り入れられたのが、ベルギーで「フランダースの犬」が知られるようになったきっかけだったそうです。ちなみに、「ススカとウィスカ」の「フランダースの犬の巻」は、日本語翻訳が同時発売されて当時話題を呼んだそうです。

「漫画」(Manga)といえば日本ですが、ベルギーの漫画もなかなか巨大かつ重要市場といえそうです。【了】

※筆者の個人的な見解で、所属する組織の公式見解ではありません。


栗原恵津子(くりはら・えつこ)
1995年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、外務省入省。1996-1998年、英国ケンブリッジ大学留学、その後、英国、ブルネイでの在外勤務を経験。東京ではアフリカ、西欧、経済連携協定、ユネスコなどを担当する部署で勤務。2014年1月にベルギーに赴任、広報文化全般を担当。

洗練されたコミックの壁画

漫画博物館での「初音ミク講演」の様子

ベルギー版「アニオタ」?

ギャルリー・サンチュベールにあるYoko Tsuno通り


栗原恵津子 ベルギー便り 外交 政治・経済 ライフ