2016年4月19日発行

【パリの空の下から〜国際行政官の視点〜】⑧〜多様性(ダイヴァーシティ)への挑戦

女性のリーダーシップへのアクセスをテーマとしたコンファレンスの様子/著者提供

【4月19日、mulan=パリ】


■先進国の中で女性の社会進出が進んでいない国


去る4月11日、OECD事務総長のアンヘル・グリア氏が東京を訪れ、日本への政策提言を発表した。その中で、経済の構造改革や、財政の健全化など、代表的なメニューに加え、女性の活躍や、そのための働き方の見直し、長時間労働の是正について強調していたことが特に注目される。

先月の話になるが、OECDでは3月8日のInternational Women’s Dayに合わせて、女性のリーダーシップへのアクセスをテーマとしたコンファレンスが行われた。OECDの政策職員の4割以上は女性であり、女性の管理職、幹部も珍しくない。このコンファレンスの司会を務めたのも、事務総長の右腕の役割を果たす、首席スタッフの女性である。

各国から、男女3人ずつ、6人のパネリストが集まり、日本からは、(株)イー・ウーマン社長の佐々木かをり氏が登壇された。このコンファレンスでもクローズアップされたが、日本は先進国の中では女性の社会進出が比較的進んでいない国と認識されている。実際、政治、行政、企業のトップレベルにおける女性の割合に関する各種の国際比較の多くで、OECD諸国中、最下位に近い順位となっている。だがそれゆえに、最近の官民における女性活躍促進の動きは注目されている。

OECDの最近の統計によれば、OECD諸国平均で、上級レベルの公務員に占める女性の割合は30%程度とのことだ。この数字は、日本の感覚からすれば非常に高く感じるが、例えば私が以前勤務していたイギリス財務省では、10年前で既に、課長級以上の約4割が女性であった。日本政府も、2020年までに各分野の指導的地位にある女性の割合を30%以上とする目標を掲げている。霞ヶ関の国家公務員についても、総合職(いわゆるキャリア組)採用に占める女性の割合を30%以上とすることを目標としており、財務省においても、実は2年連続してこれを達成している。だが、今年入った女性職員達が管理職や幹部になるまでには、今の人事体系を前提とすれば20年、30年といった時間がかかる。


■ヨーロッパでは女性首相が続々と


もし、もっと早く女性管理職の割合を高めようとするのであれば、外から人材を抜擢するしかないが、日本の官庁はそのような人材の流動性を前提としていない。おそらく日本の大企業なども同様の問題に直面しているであろう。ダイヴァーシティとは、目標を決めればすぐに実現できるものではない。組織全体、さらには社会全体を含めた様々な要因が絡み合っており、それらを構造的に変えていくことが求められるのである。その構造的な要因の際たるものは、恒常的な長時間労働に示される「働き方」の問題だ。最近、霞ヶ関においても、男女を通じた働き方の見直しこそが、女性の一層の活躍のためにも不可欠であることが認識され、改善へ向けた取組みがなされつつある。この点については、また機会を改めて論じたい 。

官庁のみならず、政治の世界においても、ヨーロッパでは女性の活躍が進んでいる国が多い。イギリスのサッチャー首相やドイツのメルケル首相のような女性のリーダーの存在はそれを最も雄弁に物語っている。フランスでは、女性の大統領はまだいないが、現内閣においては、閣僚の約半分を女性が占めている。(なお、そのうちの一人であるセゴレーヌ・ロワイヤル環境相は、2007年の大統領選における社会党の候補者であったが、サルコジ氏に敗れた。)日本でも多くの女性が国会議員や閣僚として活躍しているが、全体の割合としては、OECD諸国中でも下位に留まっている。

組織における女性の割合を高めるためのドラスティックな手段として、「クオータ」(割当制)がある。例えば、企業の取締役会の一定割合や、政党の候補者の一定割合を女性とすることを義務付けるものである。これについてはヨーロッパでも賛否両論があり、前述のOECDのコンファレンスでも、クオータの是非が一つの論点となった。興味深かったのは、6人のパネリストのうち、男性の3人は、それぞれダイヴァーシティについては熱心であるにも関わらず、クオータについては慎重な姿勢であったのに対し、女性の3人はいずれもはっきりとクオータを支持したことである。

日本の佐々木かをり氏が、クオータは女性への特別扱いではなく、男性への(暗黙の)特別扱いを取り除くものだ、と明言し、聴衆の喝采を受けていたのが印象的であった。なお、前述の30%目標のような「ターゲット」は、自主的・漸進的な取組みを前提としており、クオータとは区別されている。

ダイヴァーシティへの取組みにおいて、ヨーロッパは日本よりはるかに進んでいるとはいえ、その進展は一朝一夕に成されたものではない。そして今でも、男女間の意識の違いは様々な部分で根強く残っている。OECDで今もこうしたコンファレンスが行われること自体、それが挑戦を続けていかなければならないテーマであることを物語っている。【了】

※本稿は個人としての見解であり、筆者の属する組織の見解を代弁するものではありません。


(筆者プロフィール)高田英樹/たかだ・ひでき
1995年に東京大学法学部卒業後、財務省(旧大蔵省)に入省。1997年から99年に英国留学。2003年から06年に、英国財務省で勤務。2009年に民主党政権下で新設された「国家戦略室」の最初の職員として抜擢された。主計局、主税局等で、主に財政政策に携わる。2015年7月より、パリ・OECDに出向。個人blogに日英行政官日記(http://plaza.rakuten.co.jp/takadahmt)がある。近著に日本の財政の『真実』

(高田氏よりのお知らせ)関心のある方は、筆者のHPをご参照ください。


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