2016年2月7日発行

東日本ガス判決要旨(上)

東日本ガス社屋/同社HPより

【2月7日、mulan=東京】

■事件の概要
原告らは、東日本ガスの完全子会社化において、ニチガスとの株式交換に反対し、買取請求をしたが、東日本ガスが価格決定の申立てをしなかったので、撤回した。原告らは、ニチガスの株若しくは東日本ガスの株の交付又は口頭弁論終結時におけるニチガス株若しくは東日本ガス株の対価の支払いを求めた。

■判決
ニチガス株、東日本ガス株の交付は棄却
撤回時の株価+金銭請求時以降の利息を支払え
訴訟費用は四割が原告、六割が被告の負担。

■理由
株式返還の主張について
株式交換がされた場合、完全親会社は、効力発生日に完全子会社の発行済株式を取得し、完全子会社の株主は、効力発生日に完全親会社の株主となる〔会社法769条〕。一方、株式交換に反対する完全子会社の株主は、完全子会社に対し、株式買取請求を行うことができ〔785条〕、その株式買取請求に係る株式の買取は、効力発生日にその効力を生じ、株式買取請求を行った株主が完全親会社の株主となることはない。株式買取請求がされた後、株式交換の効力が生じたときは、当該請求をした完全子会社の株主が有する株式は、その効力発生日に完全子会社を経て完全親会社に移転することになる。

そして、株式交換の効力発生日後に株式買取請求が撤回された場合には、完全子会社には原状回復義務として完全子会社の株式を返還する義務が生じるが、完全親会社が完全子会社の株式を取得していることから、当該義務は履行不能となり、結局当該義務を負っていた完全子会社は、株式買取請求に係る株式の代金相当額の金銭を返還する義務を負うことになる。

したがって、株式買取請求の撤回により、原告らが被告の株主としての地位を回復し、これを前提として日本瓦斯の株主の地位にあることを前提とする原告らの主位的請求は理由がない。
この点原告らは、株式の売買は種類物の売買であり、その引渡し義務は原則として履行不能とならないなどと主張する。

しかし、完全子会社の株主が有する株式は、その効力発生日に株式買取請求に係る株式を含めて完全子会社を経て完全親会社に移転する。株式交換制度は、組織再編行為の中で完全親子会社を作出する手段として会社法上定められている制度であり、完全親子会社が作出された後になって株式買取請求の撤回によってその完全親子会社関係を否定する効力をもたらすことは会社法上予定されていないものと解される。そうすると、完全子会社が完全親会社から子会社の株式を入手し株主に引き渡すことは社会通念上あるいは取引観念上その実現を期待し得ず、履行不能となるものというべきである。

したがって、原告の主張は採用できない。

また、原告らは、株式買取請求をした株主は、その対価としての金銭を受け取る権利を有するところ、これを撤回しても金銭しか受け取れないのであれば、撤回をする意味がなく、撤回を認めた条文は無意味な条文ということになるとも主張するが、株式買取請求の撤回により株式交換前の株式の引渡しを受けることはできないことは、上記判示のとおりであり、原告らの指摘を踏まえても、結論を左右しない。【続】


山口三尊(やまぐち・みつたか)
1967年、東京都出身。私立麻布高校、中央大学法学部卒業。資格試験予備校講師の傍ら、カネボウ、“レックスHD株をめぐる裁判で勝利。カネボウ個人株主の権利を守る会代表、アドバンテッジ被害者牛角会代表、東宝被害者の会、ローランド被害者の会代表。大渕愛子被害者の会世話人、不動産鑑定士試験合格。主にMBO裁判の経験をまとめた「個人投資家の逆襲〜金なしコネなし知識なしの弱小投資家が判例100選に載るまで」を刊行。


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