2016年1月15日発行

【山口三尊の経済事件簿】①〜MBOの落とし穴

東宝不動産所有の帝国劇場/撮影 編集部

【1月15日、mulan=東京】


■東宝不動産事件は異例の事態


自動車屋で、自動車を100万円で買ったら、三年後に無理やり取り上げられ、文句を言うと、

「なら40万円払ってやる。こんな車は、相場30万円だ。3割も高く買ってやるからありがたく思え」と言われたらどうだろう?

おそらく、「もう二度と車なんて買わない」と思うだろう。まったくありえない話である。

ところが、株の世界では、このようなことが日常的に行われている。それが、MBO(経営者による買収)や、完全子会社化である。

現在、私はMBOや完全子会社化の裁判を9件抱えているが、その一つ、東宝不動産の完全子会社化の事件では、高裁の審理が10ヶ月近くにわたってストップするという異例の事態となっている。

この事件は、親会社の東宝が東宝不動産の株式を735円で取り上げようとしたものだ。東宝不動産は一等地に不動産を持っており、帳簿価格でも1500円、時価ベースでは2500円の価値がある。そこで私は、平成25年5月の東宝の株主総会で、逆に提案してみた。

「私の株を735円で取り上げるなら、逆に東宝が持っている株を1,000円で売ってください。」

少なくとも1,500円の価値がある東宝不動産株を1,000円で売ってくれるなら億万長者になれると考えたからだ。いうまでもないが、東宝は躊躇なく拒絶した。


■東京高裁の判決の行方は・・?


このような場合、アメリカでは、最も高い買収者に売らなければならないというルールがある(レブロン義務)。従って、1,000円以下というのはありえないのだが、東京地裁は平成27年3月25日、735円を100円引き上げて835円という決定を下した。少しは上ったが、依然として1,000円以下だ。

私がかつて体験したカネボウ事件では、会社側主張162円に対して、裁判所の決定は360円と120%増となった。また、レックス事件では、23万円が33万6,966円と46%増となった。735円の122%増なら1,631円と不動産の簿価を上回るし、46%増なら1,073円と、アメリカのルールはクリアしていることになる。

果たして、東京高裁は「世界標準」の決定を下すのだろうか。裁判の行方が注目される。【了】


山口三尊(やまぐち・みつたか)
1967年、東京都出身。私立麻布高校、中央大学法学部卒業。資格試験予備校講師の傍ら、カネボウ、“レックスHD株をめぐる裁判で勝利。カネボウ個人株主の権利を守る会代表、アドバンテッジ被害者牛角会代表、東宝被害者の会、ローランド被害者の会代表。大渕愛子被害者の会世話人、不動産鑑定士試験合格。主にMBO裁判の経験をまとめた「個人投資家の逆襲〜金なしコネなし知識なしの弱小投資家が判例100選に載るまで」を刊行。


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