2015年12月1日発行

【取締役に訊く 野呂洋子氏】①〜エンジニアから銀座の画商に「転職」

野呂洋子銀座柳画廊副社長

【12月1日、mulan=東京】


■結婚を機に、夫と独立創業


----大学卒業後は、日本アイ・ビー・エムでエンジニアをなさっていたということですが、なぜ銀座で画商をすることになったのですか?

野呂 ひとことで言うと、結婚です。たまたま、夫である社長が、結婚を機に実家の画廊を辞めて独立することになったので、一緒にチャレンジすることになりました。

ちょうどアイ・ビー・エムが全社員対象にリストラを行った時期と重なったこともあります。パソコンの時代が到来し、大型コンピューターが売れなくなっていた。そういう時代の端境期に、アイ・ビー・エムという会社は、完全に出遅れていました。私はまだ20代の平社員だったのですが、それでも「早期退職制度」を利用すれば、退職金が1200万円ももらえると言われた。

また、大企業で働くことの限界も感じ始めていました。

大企業では、ネットワーキングや報告が上手く、自己顕示欲も相当強くないと、頭角を現しにくいという現実がありました。エンジニアは概して、できる人ほど仕事に追われ、社内ネットワーキングがつくりにくいのです。

そういう中で、起業にも興味があった私は、夫とふたりで事業をスタートするということに魅力を感じました。実際、銀座柳画廊は小さな会社なので、社長とふたりで舵取りをし、納得のいく仕事をすることができます。


■10ヶ月で資金繰りに行き詰まるも、個展開催で乗り切る


----創業にあたって、資本金は折半したそうですね。画廊が軌道に乗るまで、相当なご苦労があったと思われますが。

野呂 500万ずつ出資して、資本金1000万円で銀座柳画廊を起業しました。とはいえ、場所は「美術の市」が立つ銀座。

15坪の店舗でスタートしましたが、不動産の保証金と造作費で、資本金は飛びました。ふたりで3000万円ほど用意していたのですが、家賃を払ったり、何点か絵を買い入れると、10ヶ月ぐらいで、資金はすでに底をついていました。

そんな中、初の個展として、島村達彦先生の展覧会をさせていただくことができたのです。そこで完売させていただいて、ようやく息がつけました。島村先生の展覧会を最初にしていなかったら、おそらく、柳画廊は閉店していたと思います。

島村先生に個展の開催をご快諾いただけたのは、先生のお人柄ももちろんありますが、社長の実家の信用力が大きかったはずです。社長の実家は、大阪の「梅田画廊」という老舗の画廊で、「西の梅田、東の日動(画廊)」と言われるぐらい、業界内では有名でした。

独立したわけですから、梅田画廊とは会計からなにから全く別だったのですが、やはり「梅田のお坊ちゃん」のブランドは馬鹿になりませんでした。事実、最初に飾る絵などを貸していただけたのは、梅田の信用力があってこそだったと思います。社長にしてみれば、忸怩たる思いがそこにはあるわけですが、伝統を尊重し、信用第一の美術業界では、大変な強みでした。


■「絵」は、心に癒やしと潤いを与え、パワーをも与える


----ところで、絵画を購入する方というと富裕層といった印象が強いのですが、最近では、キャリア女性が購入していく事例も珍しくないと聞きました。

野呂 柳画廊のお客様の大半はもちろん富裕層の方々ですが、「自分へのご褒美」として購入していくキャリア系の女性が増えてきたのは本当です。仕事で手がけたプロジェクトが上手くいった時や転職してキャリアアップした時にご購入されるというケースが目立ちます。

業界としては、金融系の方が多いように感じます。

おそらく、買う方の気持ちの持ち方だと思うのですが、絵描きさんというのは、基本的に「経済」の中で生きている人たちではない。

生きていくとは何か----ということを常に自分に問いかけながら創作活動をしている方たちです。

あくまで私見ですが、金融系の方は、扱う商品が「お金」じゃないですか。お金を稼ぐということを生業にしているので、何にお金を使うのかということにこだわりがある。彼女たちにとって、絵にお金を使ったということが、心に潤いを与え、癒やしにつながっているように感じます。

私は、絵には、人にインスピレーションや、明日への生きるエネルギーを与える力があると思っています。彼女たちは絵から、リラクゼーション効果だけではなく、そういうパワーも受け取っているのではないでしょうか。(取材・構成/編集部)【続】


野呂洋子(のろ・ようこ)
銀座柳画廊取締役副社長。慶應義塾大学理工学部卒。日本アイ・ビー・エムでシステムエンジニアとして活躍するが、野呂好彦氏との結婚を機に退社。銀座柳画廊を好彦氏と共に創業する。美術業界を考えるコラムを同社HPにて執筆中。「Xmas Art Festa 2015」(12/11〜)で、「聖夜のおくりもの展」を開催予定。

島村達彦氏個展/銀座柳画廊

「白い器のリンゴ」/島村達彦作


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