2015年2月10日発行

新・『トーキョー・メンタルクリニック』①

鈴木裕子医師

【2月10日、mulan=東京】

はじめまして、精神科医の鈴木裕子です。

このたびコラムを担当させていただくことになりました。女性に特化したニュースサイトですので、女性ならでは視点から、精神医療のことだけではなく、いろいろと書かせていただけたらと思います。


■男女では罹りやすい病気が違う


男女では、身体構造、性ホルモン、飲酒や喫煙などの生活習慣などが違うため、罹りやすい病気が違います。貧血やリウマチ、乳癌は女性に多く、痛風、肺癌は男性に多いのはなんとなく想像がつくと思います。

精神疾患でいえば、うつ病、パニック障害、アルツハイマー型認知症、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などは女性が男性よりも多く、PMS(月経前症候群)などの生理に関する疾患は、もちろん女性しか罹り得ません。統合失調症、アスペルガー症候群などの発達障害、アルコール依存などは男性の方が多いと言われています。

精神疾患の原因は特定されていません。遺伝子、ホルモン、環境などの様々な要因が影響しあい発症する病気が少なくありません。脳の働きが健康な状態とは違っている、ということははっきりしているようです。脳の作りや働きかたも男女では違いがあるので、なりやすい病気も当然違いがあるのでしょう。

余談ですが、同性愛の人と異性愛の人では、脳のある部分の大きさや働きが違うそうです。ですから、同性愛であるということは、気持ちの問題ではなく脳の問題で、本人の責任ではないという意見が優勢です。


■女性の体は月イチでダイナミックな変化にさらされる


生理前には二つの女性ホルモンのバランスが逆転し、妊娠初期には女性ホルモンがどっと増え、出産後は急激に減り、授乳のための別のホルモンが増えます。このように女性の体は月に一度はダイナミックな変化にさらされますし、全員ではないですが、一生のうちに何度か、出産という命をかけた大仕事に臨みます。毎月大量出血するわけですし、妊娠中は子供に栄養を与え続け、歯や髪や皮膚がぼろぼろになります。

体や心に負担がないはずがありません。

心理社会的な、いわゆる「女」としての役割の問題も、精神的な病気には大いに関係しています。先進国の中でも日本は女性議員の比率は少ないですし、企業の管理職での女性の割合も少ないです。

出産をすると、仕事での第一線の活躍はあきらめなければならない人が大部分です。結婚しただけでも第一線は無理だろうという雰囲気がある職場もあります。かつて私が働いていた大学病院はそうでした。いわゆるガラスの天井はまだ確実に存在しています。

それを突き破って仕事にまい進しても、「仕事しかしていない」と、女性として欠陥品であるかのような扱いを受けます。ひと昔前は抑圧され、やりたいことも出来ず、妻として母として生き、自分自身の人生を送れていない気がしていた女性が多かったと思いますが、現在はどのような人生を送るか、女性自身で選択することができます。


■ありえない女性像を理想としへとへとに


それ故か最近は、結婚し子供も産み、仕事もし、見た目も女性らしく美しくあり続ける、そのようなありえない女性像を理想とし、それを目指しへとへとに疲れている女性が多い印象です。

当院への受診のきっかけは、男女ともに仕事の負担の増加、パワーハラスメント含めた職場での対人関係の悩みが多いです。

しかし、子供が病気のたび欠勤しなくてはならないことが心苦しい、どの会社でも男性上司に「生意気だ」といわれる、結婚や出産ができるのかとの不安や焦り、子供の病気を自分のせいだと義理の両親に責められた、自分は義理の両親に尽くしてきたのに息子家族は寄り付かない、夫からの暴力、セクシャルハラスメントやレイプなどの性被害など、女性ならではの理由も多く認められます。

もちろん男性には男性のしんどさがありますが、こうしてみるとやはり女性の人生というのは、なかなか大変ですね。近年、女性専用外来をもうける病院が多いことも、女性の体や心や社会的状況の困難さを物語っているのかもしれません。【了】



すずき・ゆうこ/鈴木裕子
平成10年医師免許取得。その後、大学病院、市中病院、精神科専門病院などで研鑽を積み、触法精神障害者からストレス性疾患患者まで、幅広い層への治療歴を持つ。専門はうつ病の精神療法。興味の対象は女性精神医学、社会精神医学、家族病理、医療格差など。数年前より都内某所でメンタルクリニックを開業し、日々診療にあたっている。精神保健指定医、日本医師会認定産業医。


鈴木裕子 トーキョーメンタルクリニック 医療・妊活